News症例紹介院長のブログ

2022.05.20

血尿が続いている?
犬の膀胱移行上皮癌の治療

犬の膀胱移行上皮癌とは

膀胱腫瘍には良性と悪性(癌)があり、悪性腫瘍である確率は約97%であるといわれています。

中でも移行上皮癌は浸潤性、転移性が非常に強いとされていて、雄より雌に多く(2倍)、ビーグル、シェルティ、スコティッシュテリア等に好発します。

目に見えない場所にできる腫瘍なので、血尿・頻尿・しぶりなど、排尿の異常から病気の発見につながります。

犬の膀胱移行上皮癌の診断

  1. まず超音波検査・造影レントゲン検査などで腫瘍の存在範囲と他の泌尿器を調べます。
  2. 悪性かどうかを調べるために、尿や腫瘍の一部を細胞検査・遺伝子検査に提出します。
  3. 癌が強く疑われる場合は外科手術を行い、病理検査をします。(発生部位により手術不適もあり)
  4. 術後レントゲン検査などで、転移(肺転移など)がないか確認することが必要です。
  5. 手術する範囲が大きいほど排尿障害が残ります。およそ1~2か月ごとに定期検査が必要です。

 

犬の膀胱移行上皮癌の治療

腫瘍の手術は、しこりの部分だけを切り取るのではなく、まわりの健康な組織も含めて切除します。

しかし、最も発生の多い膀胱三角部といわれる部分には、尿管の開口部があるため大きな手術ができません。

(膀胱全てを切除することはできますが、合併症が多く、その後は一生、尿失禁が続くようになってしまいます。)

このような場合は残りのガン細胞をやっつけるために化学療法(抗がん剤)を最低6ヶ月を目安に行います。

外科手術での平均生存日数は約6ヶ月とされており、遠隔転移を抑えるには、外科手術のみでは十分な治療とはなりません。

犬の膀胱移行上皮癌の症例紹介

シェットランドシープドッグ 11歳 去勢オス

1ヶ月前から血尿が続くため、かかりつけ病院からのご紹介で来院されました。

既往歴:特になし

犬の膀胱移行上皮癌の検査所見

体重11.58kg 体温38.0℃ 心拍数122回/分 呼吸数30回/分
一般状態   :良好
一般身体検査 :特記すべき異常所見なし
画像検査   :膀胱内に腫瘍、筋層浸潤なし
血液検査   :異常所見なし

細胞診:異型性に乏しい上皮細胞集塊

BRAF遺伝子検査:BRAF変異あり(膀胱・前立腺癌の可能性)

犬の膀胱移行上皮癌の治療オプション

1.  外科治療  手術単独での成績は、中央生存期間100〜200日とされています。

 ・腫瘍摘出術:初期の膀胱癌や生検のために実施します。合併症は少なく、腫瘍のタイプによっては有効です。

 ・前立腺膀胱全摘出術:中期以降の膀胱前立腺癌に適用します。合併症率は高いが、成功すれば症状緩和と長期生存の可能性があります。

     ➡︎当院での膀胱前立腺癌の外科手術についてはコチラも参考にしてください。

2.放射線治療 膀胱移行上皮癌への実施は限られます。膀胱線維症や腸管障害を引き起こす可能性があるため、慎重に実施が必要です。

3.化学療法  膀胱移行上皮癌には外科手術単独よりも良好とされ、中央生存期間は180290日と報告されています。

4.分子標的療法  新しい治療法がいくつか開発されています。およそ半数の症例で腫瘍縮小効果が認められ、250日以上の生存が認められています。

 

本症例は、腫瘍が小さく、細胞診での異型性が少ないことを踏まえて、まずは生活に支障のない範囲で手術して検査することにしました。

 

犬の膀胱移行上皮癌の外科治療

第32病日 生検を兼ねて「膀胱部分切除術」を実施しました。

水平方向に2cmのマージンをとって切除しました。

手術後の排尿障害は最小限でした。

 

病理検査結果「膀胱移行上皮癌 マージンクリア」 WHO分類 T 1N0M0

第93病日 術後2ヶ月で微小再発を確認

オーナーは拡大切除を希望せず、化学療法による緩和療法を実施しました。

 

犬の膀胱移行上皮癌の化学療法

第120病日 CBDCA  150~300mg/m2 3〜4週毎を行いました。

化学療法を行なっている様子。お利口さんに座ってますね。

 

その後、膀胱粘膜沿いに浸潤拡大してきましたが、

現在、術後9ヶ月を経過して元気に過ごしています。

     

    膀胱腫瘍の治療など、犬猫の病気の治療をどうすれば良いか分からない場合は、いつでもご相談ください。

    あれ??血尿してる?
    そういえば最近体重が減っているかも・・・・
    触ると嫌がるようになった???

    等々、何か異変を感じた場合は、当院までご相談下さい!!!

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    この記事を書いたひと

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    武信

    浜松家畜病院院長

    飼っている動物:大型犬2匹、小型犬2匹
    趣味:音楽鑑賞・キャンプ
    性格:まとめ上手

    【メッセージ】
    子供の時から動物好き、獣医師である祖父に憧れて、今に至ります。
    はじめて担当した患者さんがガンで悩んでいたことから、腫瘍専門の獣医師に。
    動物の病気に悩んだ時は、気軽に相談してください、一緒に考えます。

      このブログの監修

      武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

      武信行紀(たけのぶゆきのり)

      治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

      経歴:

      • 鳥取県鳥取市出身
      • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
      • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
      • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
      • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

      所属学会・研修:

      • 日本獣医がん学会
      • 獣医麻酔外科学会
      • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
      • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

      主な執筆・学会発表

      • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
      • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
      • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
      • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
      • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
      • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
      • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
      • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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