犬の肋骨腫瘍とは

犬の肋骨に発生する腫瘍は、骨肉腫が最も多く(62%)、次に軟骨肉腫が多い(27%)と報告されています。その他、線維肉腫や血管肉腫が挙げられています。

参考:Pirkey-Ehrhart N, et al. Primary rib tumors in 54 dogs. J Am Anim Hosp Assoc. 1995

犬の肋骨腫瘍の症状

初期は症状がなく、硬いしこりに気づいて来院されることがほとんどです。

進行すると痛みが認められる場合もあります。

 

犬の肋骨腫瘍の診断

腫瘍の大きさ(Tumor)や、リンパ節転移(lymph Node)、遠隔転移(Metastasis)を評価することで,進行度を確認してから治療方針を決定します。これをTNM分類とか、ステージングと言います。

WHOでは、犬の骨腫瘍にステージを設定していませんので、下表の進行度は便宜上のものです。

進行度T分類N分類M分類
初期T1 骨内腫瘍M0
中期T2 骨膜を越えて浸潤M0
転移期AnyM1
犬の骨腫瘍のTNM分類

犬の肋骨腫瘍の外科・放射線治療

一般的には下記の三段階の手術がありますが、腫瘍の種類や年齢に応じて、その都度、手術方法は変わります。

手術費用は、犬の大きさやしこりの数によって変わりますが、1〜3の順に価格は高く、入院期間も長くなるでしょう。 

1. 腫瘤切除

腫瘍だけを切り取る方法です。良性腫瘍や検査目的などで行われることがあります。麻酔時間は短く、痛みも少ない方法ですが、肋骨を残して切除するため、再発の可能性は高くなります。

2. 辺縁切除

腫瘍を含めて周囲組織を切除しますが、腫瘍辺縁(マージン)を数ミリに設定します。痛みや機能障害が少ない方法です。

3. 拡大切除

腫瘍を含めて周囲組織を一括切除します。しっかり切除が可能で取り残しを防ぎます。切除する広さや深さを調節することよって、再発の可能性を減らすことが出来ます。手術の傷が大きいため、筋肉や横隔膜などの転移術が必要になります。

放射線治療

腫瘍が大きくて手術ができない場合や、初めの手術で取りきれない場合に適用されます。痛みを抑えるために使用することもあります。

犬の肋骨腫瘍の化学療法

悪性腫瘍の場合、化学療法を受けた患者様の方が生存期間が延長するとされています。

外科手術単独を含む治療群(全体)術後化学療法を行なった治療群
無腫瘍期間中央値(DFI)60日225日
生存期間中央値(MST)90日240日
Pirkey-Ehrhart N, et al. Primary rib tumors in 54 dogs. J Am Anim Hosp Assoc. 1995

現在、骨肉腫には抗がん剤「アドリアマイシン」「カルボプラチン」と非ステロイド系の消炎剤「COXⅡ阻害剤」を併用する治療法が使用されています。いずれも手術後の再発・転移を予防するために補助的に使います。

ちなみに、人で先進医療Bに指定された「カフェイン併用療法」は動物では使用されていません。犬にカフェインは毒性が高いとされているためです。 

犬の肋骨腫瘍の症例紹介

 バーニーズマウンテンドッグ 7歳 メス

左肋骨にしこりがあるとのことで、かかりつけ病院からのご紹介で来院されました。

肋骨腫瘍の検査所見

体重35.8kg 体温38.0℃ 心拍数100回/分 呼吸数30回/分
一般状態   :良好
一般身体検査 :左最後肋骨の頭側、胸壁中央に硬く隆起した腫瘤が認められた。       
画像検査   :局所の骨浸潤像あり、遠隔転移なし
血液検査   :特記すべき異常所見なし

細胞診:炎症細胞と軽度異型性を持つ細胞がわずかに採取された

コア生検:非上皮系悪性腫瘍を疑う

肋骨腫瘍の外科治療

 オーナーは外科切除をご希望されました。

 第20病日 「開胸ー肋骨腫瘍拡大切除術」実施。

 腫瘍の前後1本の肋骨と周囲2cm以上のマージンをとって切除を行いました。

 腫瘤は胸腔に突出していましたが、胸腔臓器への癒着は認められませんでした。

術後病理診断は 「骨肉腫 マージンクリア」

肋骨腫瘍の化学療法

骨肉腫では、化学療法を受けた患者様の方が生存期間が延長するとされています。

本症例にはカルボプラチンによる化学療法を実施しました。

その後、他の腫瘍で天に召されるまで、肋骨腫瘍の再発・転移は認められませんでした。

犬の肋骨腫瘍を早期発見するために

日々のスキンシップを欠かさず、定期的に皮膚の触診をすることが一番の予防になるかもしれません。

肥満だと肋骨の触診が難しくなりますので、標準体型に保つのも大事ですね。