猫の肺腺癌について
原発性肺腺癌は高齢のネコに最も多く、肺にできる腫瘍の6〜7割を占めています。
外科手術が適応になりますが、転移性が高いため注意が必要です。
猫の肺腺癌の症例紹介
雑種猫 14歳 避妊メス
かかりつけ医で肺腫瘍を指摘され、来院されました。
1ヶ月間、ステロイドを投与したが改善がないとのことでした。
既往歴:特になし
猫の肺腺癌の検査所見
体重5.8kg 体温38.0℃ 心拍数140回/分 呼吸数40回/分
一般状態 :良好
レントゲン検査:右肺後葉3cmの腫瘤病変
血液検査 :異常所見なし
仮診断 :肺腫瘍
猫の肺腺癌の外科治療
第3病日 「肺葉切除術」実施。
胸膜面に一部自潰しており、軽度の癒着を認めました。
麻酔に問題はなく、覚醒も良好でした。
術後の病理診断は「肺腺癌 マージンフリー」でした
腫瘍細胞の異型性(≒悪性度)は中程度でした。
肺腺癌の手術成績は中央生存期間115日とされ、悪性度によって差がある(中程度なら698日、高悪性度なら75日)と報告されています。
本症例では手術後の確定診断で「中程度の悪性度」と分かりました。
猫の肺腺癌の補助治療
肺腺癌は一般的に転移性が高く、外科手術のみの治療では、転移死亡率86% という報告もありますので、
手術後の補助療法が必要です。
補助治療の種類として、下記が挙げられます。
・化学療法 :エビデンスが少なく、どの薬が最も効果があるかわからない現状です。
白金製剤(カルボプラチン)やアントラキノン系(ミトキサントロン)はいくつかの報告で肺腫瘍(原発・転移含む)に効果が見られています。
・分子標的薬 :効果に期待されていますが、効果は不明です。標的分子の一つEGFRの陽性率は25%と報告されています。
・COX2阻害薬 :犬ではよく使われますが、猫の肺腺癌にはCOX2の発現率が低く、薬の血中安定性も低いことから全例には勧めていません。
上記のことから、本症例では補助治療としてカルボプラチンによる化学療法を実施いたしました。
術後6ヶ月の様子。すっかり元気です。
この調子で長生きしてほしいですね。
参考文献:Hahn KA, McEntee MF. Primary lung tumors in cats: 86 cases (1979-1994). J Am Vet Med Assoc. 1997;211(10):1257-1260.
ご家族の感想
「我が家の愛ネコの肺にガンが有るということが判った時は手術するかどうか迷いました。というのも年齢も14歳となっていて、あまり苦しい思いをさせないほうが良いかなと考えたからです。セカンドオピニオンとして、武信先生から手術でき助かる可能性もあるというアドバイスを頂けたので、思いきって手術にかけてみることにしました。幸い手術も成功、ガンも原発ということもあって再発もなく、元気にご飯を食べてくれる姿を見ることができて幸せに感じています。いろいろなアドバイスとサポートを含めて本当に感謝しています。ありがとうございました。」