犬の口腔悪性黒色腫とは
悪性黒色腫(メラノーマ)は犬の口腔の腫瘍で最も多い悪性腫瘍です
歯肉から発生することが多いですが、口の中にはどこにでも発生します
黒色腫という名前からもわかる通り、黒くメラニン色素が沈着していることが特徴ですが、メラニン欠乏性の乏色素性メラノーマもあり、色調はさまざまです
下のような特徴を持っています
強い浸潤性
- 進行が早いので、発見した時には大きくなってリンパ節にも広がっていることもあります
- 早期に外科手術を行うことが最も重要です(生存期間は著しく向上します)
- 外科的切除が難しいことがあり、そのような場合は放射線治療の適応となります
遠隔転移しやすい
- メラノーマが一筋縄でいかないのは遠隔転移性も強い腫瘍であるということです
- 外科切除や放射線治療のみでは根治できず、転移を減らす化学療法(抗がん剤)などが必要です
- 近年では分子標的薬や、がんワクチンなど新薬の研究が行われています
犬の口腔悪性黒色腫の診断
一般身体検査により腫瘍(Tumor)のサイズと広がり、リンパ節(lymph Node)浸潤を確認します
胸部レントゲン検査で転移(Metastasis)の有無を確認します
全身状態の把握のために血液検査、腹部超音波検査も実施した後、細胞診や組織検査を実施します
全ての検査所見から進行度分類(これをTNM分類とかステージングと言います)を行います
臨床ステージ | T分類:腫瘍サイズ(cm) | N分類:リンパ節浸潤 | M分類:転移 |
stage1 | <2 | - | - |
stage2 | 2~4 | - | - |
stage3 | >4 or 骨浸潤 | +可動性あり | - |
stage4 | すべて | +対側または固着 | + |
犬の口腔悪性黒色腫の治療
1. 外科手術
術式 | 切除範囲 | 適用 |
1. 腫瘍切除 | 腫瘍のみを切除 | 主に検査目的 |
2.顎骨部分切除 | 腫瘍を含めた顎の一部を切除 | 上顎腫瘍や小さな腫瘍 |
3.顎骨片側切除 | 腫瘍を含めた片側の顎を切除 | 下顎の腫瘍 |
腫瘍のサイズと生存期間の相関がわかっていますので、早期に手術を行うことが推奨されます
またほとんどの場合、上記の手術に加えて腫瘍が浸潤した下顎リンパ節を摘出します
2. 放射線治療
種類 | 1回の照射 | 照射回数・期間の例 | 適用 | 麻酔回数や費用 |
1. 緩和的治療(低分割照射法) | 大線量(6〜8Gy) | 週1回、4〜8回 | 放射線効果の高い腫瘍、高齢の動物 | 少ない |
2. 根治的治療(高分割高線量照射法) | 小線量(2〜4Gy) | 週3〜5回、10回以上 | 最大限の治療効果、固形がんの治療 | 多い |
放射線治療の方法は大きく分けて2種類ありますが、口腔悪性黒色腫の治療では1. の低分割照射が効果的です
放射線治療を行った場合も、大きさと生存期間の相関がわかっています。1997年の報告では、2cm以下 vs 2cm以上で生存期間中央値は19ヶ月 vs 7ヶ月でした
3. 化学療法
白金化合物「カルボプラチン」の効果(反応率は約30%)などが報告されています
手術や放射線治療の補助として使用し、遠隔転移を抑制します(3〜4週間に1回、点滴注射)
非ステロイド系の消炎剤「COX-2阻害剤」などの併用効果も報告されています
治験中の「がんワクチン」は期待されていますが実施できる施設が限定され、適応症例も限られています
現在、新しい分子標的療法が複数研究中です。まだ効果の検証はされていません
犬の口腔悪性黒色腫の症例紹介
シェットランドシープドッグ 12歳 去勢オス
歯磨き中に気づいた口腔粘膜のしこりで来院されました
診断は悪性黒色腫ステージ1
数回の腫瘍切除と化学療法で3年間経過しました。現在も転移はなく、生活に支障はありません
雑種犬 11歳 オス
急速増大した下顎の腫瘍が出血してきたとのことで来院されました
診断は悪性黒色腫ステージ4
すでに転移をしていたため、止血処置と痛み止め処置を行いました
上記からもわかるように、初期に治療する方が効果が高い腫瘍です。ぜひご自宅でのお口チェックをお願いします
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