ねこブログ症例紹介院長のブログ

2022.04.18

レントゲンに影が!
猫の原発性肺腺癌とは?

猫の肺腺癌について

原発性肺腺癌は高齢のネコに最も多く、肺にできる腫瘍の6〜7割を占めています。

外科手術が適応になりますが、転移性が高いため注意が必要です。

猫の肺腺癌の症例紹介

雑種猫 14歳 避妊メス 

かかりつけ医で肺腫瘍を指摘され、来院されました。

1ヶ月間、ステロイドを投与したが改善がないとのことでした。

既往歴:特になし

猫の肺腺癌の検査所見

体重5.8kg 体温38.0℃ 心拍数140回/分 呼吸数40回/分
一般状態   :良好
レントゲン検査:右肺後葉3cmの腫瘤病変
血液検査   :異常所見なし

仮診断   :肺腫瘍

猫の肺腺癌の外科治療

 第3病日 「肺葉切除術」実施。

ご覧になりたい方はクリックしていただくと手術画像が開きます。

胸膜面に一部自潰しており、軽度の癒着を認めました。

麻酔に問題はなく、覚醒も良好でした。

術後の病理診断は「肺腺癌 マージンフリー」でした

腫瘍細胞の異型性(≒悪性度)は中程度でした。

肺腺癌の手術成績は中央生存期間115日とされ、悪性度によって差がある(中程度なら698日、高悪性度なら75日)と報告されています。

本症例では手術後の確定診断で「中程度の悪性度」と分かりました。

手術前

手術後

手術前

手術後

猫の肺腺癌の補助治療

肺腺癌は一般的に転移性が高く、外科手術のみの治療では、転移死亡率86% という報告もありますので、

手術後の補助療法が必要です。

補助治療の種類として、下記が挙げられます。   

・化学療法   :エビデンスが少なく、どの薬が最も効果があるかわからない現状です。

白金製剤(カルボプラチン)やアントラキノン系(ミトキサントロン)はいくつかの報告で肺腫瘍(原発・転移含む)に効果が見られています。

・分子標的薬  :効果に期待されていますが、効果は不明です。標的分子の一つEGFRの陽性率は25%と報告されています。

・COX2阻害薬 :犬ではよく使われますが、猫の肺腺癌にはCOX2の発現率が低く、薬の血中安定性も低いことから全例には勧めていません。

上記のことから、本症例では補助治療としてカルボプラチンによる化学療法を実施いたしました。

術後6ヶ月の様子。すっかり元気です。

この調子で長生きしてほしいですね。

参考文献:Hahn KA, McEntee MF. Primary lung tumors in cats: 86 cases (1979-1994). J Am Vet Med Assoc. 1997;211(10):1257-1260.

Beam SL, Rassnick KM, Moore AS, McDonough SP. An immunohistochemical study of cyclooxygenase-2 expression in various feline neoplasms. Vet Pathol. 2003;40(5):496-500.

ご家族の感想

「我が家の愛ネコの肺にガンが有るということが判った時は手術するかどうか迷いました。というのも年齢も14歳となっていて、あまり苦しい思いをさせないほうが良いかなと考えたからです。セカンドオピニオンとして、武信先生から手術でき助かる可能性もあるというアドバイスを頂けたので、思いきって手術にかけてみることにしました。幸い手術も成功、ガンも原発ということもあって再発もなく、元気にご飯を食べてくれる姿を見ることができて幸せに感じています。いろいろなアドバイスとサポートを含めて本当に感謝しています。ありがとうございました。」

この記事を書いたひと

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武信

浜松家畜病院院長

飼っている動物:大型犬2匹、小型犬2匹
趣味:音楽鑑賞・キャンプ
性格:まとめ上手

【メッセージ】
子供の時から動物好き、獣医師である祖父に憧れて、今に至ります。
はじめて担当した患者さんがガンで悩んでいたことから、腫瘍専門の獣医師に。
動物の病気に悩んだ時は、気軽に相談してください、一緒に考えます。

    このブログの監修

    武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

    武信行紀(たけのぶゆきのり)

    治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

    経歴:

    • 鳥取県鳥取市出身
    • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
    • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
    • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
    • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

    所属学会・研修:

    • 日本獣医がん学会
    • 獣医麻酔外科学会
    • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
    • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

    主な執筆・学会発表

    • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
    • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
    • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
    • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
    • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
    • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
    • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
    • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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