News症例紹介院長のブログ

2022.08.20

タマタマの大きさが違う?精巣腫瘍のリンパ節転移とは

犬の精巣腫瘍とは

精巣腫瘍は去勢してない壮齢犬(中央値10歳)に多く、まれに若齢でも発生します。

犬の精巣(タマタマ)は二つありますが、精巣腫瘍は左右の大きさが違うことで発見されます。

精巣腫瘍にはセミノーマ (SEM) 、セルトリ細胞腫 (SCT) 、ライディッヒ細胞腫 (LCT) の3つの種類があります。

犬の精巣腫瘍が転移する事はまれ(10%前後)ですが、長期経過を経て転移しますので、注意が必要です。

また、精巣の腫瘍に気付かないうちに、腹腔内の転移巣が巨大化することもあります。

SEMSCTLCT
発生率40%20%40%
硬さ・形状軟らかく均一硬くボコボコ柔らかく均一
転移率10%10~15%0%
精巣腫瘍の種類と特徴

転移した精巣腫瘍の症例紹介

ポメラニアン 13歳 未去勢雄

かかりつけ医にて精巣の非対称性と腰下リンパ節腫大を指摘され、紹介来院されました。

転移した精巣腫瘍の検査所見

体重4.7kg 体温38.0℃ 心拍数100回/分 呼吸数30回/分
一般状態   :良好
一般身体検査 :①左精巣やや軟性に腫大 

画像検査:   ②左外腸骨リンパ節腫大20×11mm

細胞診:②からのFNAでは裸核の類円形細胞の集塊(非リンパ球)が認められました。 

超音波検査による左右の精巣
外腸骨リンパ節の転移巣

転移した精巣腫瘍の外科治療

・精巣摘出術と外腸骨リンパ節摘出を実施しました。

外腸骨リンパ節(クリックすると手術画像が開きます)
外腸骨リンパ節摘出後(クリックすると手術画像が開きます)

・病理検査:セミノーマ、リンパ節転移(マージン+)C-kit(-) *補足を参照

精母細胞性セミノーマ (SSEM) の可能性

補足:セミノーマの細分類について

本症例ではC-kit抗体による免疫染色を行いましたが、染色されませんでした。

人間の病理学でセミノーマは定型セミノーマ(CSEM)と精母細胞性セミノーマ(SSEM)に細分類されています。

これに基づいてヒトの医学では、SSEMは発生率が低く(精巣腫瘍の1%以下)、CSEMと比べて発症時の年齢が高く、転移傾向が低いことがわかっています。

イヌでも定型セミノーマはC-kit陽性、精母細胞性セミノーマ (SSEM) はC-kit陰性になるとの報告があり、この細分類を当てはめる事が可能だとされていますが、その発生率と挙動については、まだ情報が少ない状況です。

(Hohšteter M, et al.  BMC Vet Res. 2014)

定型セミノーマ(CSEM)精母細胞性セミノーマ(SSEM)
C-kit免疫染色陽性陰性
発生率不明(ヒトでは多い)不明(ヒトでは少ない、高齢で発生)
転移性不明(ヒトではやや多い)不明(ヒトでは低い)

転移した精巣腫瘍の術後治療

今後の治療については、下記の三つを提示いたしました

1)補助的放射線治療

2)補助的化学療法

3)経過観察

高齢であること、SSEMは転移性が低い、もしくは緩やかである可能性を加味して、

しばらくは1ヶ月ごとの経過観察とし、

今後の再発状況によっては大学病院での放射線治療を検討することにしました。

精巣腫瘍の放射線治療に対する感受性は非常に高く、著者も麻布大学研修医時代に少数ですが著効した症例を経験しています。ただし、教科書には記載が少なく報告も少数ですので、症例集積が必要です。

(McDonald RK, et al.  J Vet Intern Med. 1988)

精巣腫瘍の早期治療のために

本症例は、かかりつけ医さまの手腕により、比較的早期に精巣腫瘍と腹腔内腫瘍に気づいて処置を行うことができました。

この腫瘍は、ご家庭のチェックで早期発見ができますので、去勢をしていないワンちゃんは精巣の左右の大きさ・硬さをチェックすると良いですね。

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この記事を書いたひと

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武信

浜松家畜病院院長

飼っている動物:大型犬2匹、小型犬2匹
趣味:音楽鑑賞・キャンプ
性格:まとめ上手

【メッセージ】
子供の時から動物好き、獣医師である祖父に憧れて、今に至ります。
はじめて担当した患者さんがガンで悩んでいたことから、腫瘍専門の獣医師に。
動物の病気に悩んだ時は、気軽に相談してください、一緒に考えます。

    このブログの監修

    武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

    武信行紀(たけのぶゆきのり)

    治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

    経歴:

    • 鳥取県鳥取市出身
    • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
    • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
    • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
    • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

    所属学会・研修:

    • 日本獣医がん学会
    • 獣医麻酔外科学会
    • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
    • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

    主な執筆・学会発表

    • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
    • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
    • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
    • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
    • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
    • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
    • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
    • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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