News症例紹介

2017.08.04

犬の原発性上皮小体機能亢進症

こんにちは。獣医師の竹田です。

今回は当院で初めて、犬の原発性上皮小体機能亢進症経皮的エタノール注入療法(PEIT)を行いましたので紹介したいと思います。

原発性上皮小体機能亢進症とは、上皮小体(副甲状腺)ホルモン(パラソルモン)過剰分泌によって、血中Ca濃度が上昇し、多飲多尿食欲低下腎結石膀胱結石などを引き起こします。

詳しくは、骨からCaを吸収、腎臓からCaの排泄抑制、小腸からCaの吸収促進によって、総じて血中Ca濃度を上昇させます。

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診断は、血液検査、視診、触診、エコー検査等を行い、除外診断と腫大した上皮小体結節を確認します。

治療は、内科治療(輸液、プレドニン、フロセミド、カルシトニンなど)や外科治療(上皮小体を甲状腺ごと一括して切除)の他に、比較的新しい治療法として経皮的エタノール注入療法が加わりました。(下記参考文献と要約)

 

参考文献:Outcomes for dogs with primary hyperparathyroidism following treatment with percutaneous ultrasoundguided ethanol ablation of presumed functional parathyroid nodules27 cases (20082011)

(治療成績)

外科切除:3/4個まで摘出可能、奏功率94%、奏功期間中央値561日

経皮的エタノール注入法(PEIT):奏功率85%、奏功期間中央値540日、麻酔時間30分、必要であれば追加治療

(副作用)

外科切除:低Ca血症(40%)、発咳、出血、嚥下障害など

経皮的エタノール注入法:低Ca血症(22%)、鳴き声の変化、発咳、癒着

 

ここで症例を紹介します。

症例:M・ダックス、去勢オス、15歳、6.4kg

主訴:血尿、食欲不振、多飲多尿、ときどき元気消失

血液検査:Ca:16.9mg/dL(8-12mg/dL)、P:2.2mg/dL、intactPTH:7.9pg/mL(8.0-35pg/dL)、Alb:3.3mg/dL、ALT↑、ALP↑

エコー検査:右側甲状腺の頭側領域に腫大した上皮小体結節を認めた

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診断:膀胱結石(シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム)、原発性上皮小体機能亢進症

治療:内科治療を先行し、高Ca血症(14.0mg/dL前後)と食欲不振や元気消失を繰り返すため、PEITを行った

PEIT:全身麻酔時間20分、95%エタノール0.4mLを超音波ガイド下で経皮的に腫大した上皮小体結節に注入

術後経過として、低Ca血症(6mg/dL前後)を発症してしまい、Ca製剤の投与、ビタミンD製剤の経口投与を行いました。現在2ヶ月が経過し、Ca補充療法を漸減中ではあるが、一般状態は良好で、QOLは改善しました。

 

当院ではもう一頭、原発性上皮小体機能亢進症に対してPEITを実施しており、治療経過観察中です。

 

ちなみに、人の方でPEITは1990年代後半から行われており、術後の癒着が問題となったため、今では新たな治療法が導入され、減少傾向にあるみたいです。

具体的には、診断技術の進歩(上皮小体シンチなど)によって、腫大した上皮小体のみ摘出するのが主流であり、切除困難であればシナカルセット(カルシウム受容体の感受性増加によるPTH分泌抑制)内服、直接ビタミンD注入療法やエタノール注入療法は、外科切除やシナカルセットが不適応になった場合に限って行われるようです。

 

人の医療の進歩には圧倒されてしまいますが、人での良い治療法は、慎重に、前向きに獣医療への導入を模索していきたいですね。以上です。

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浜松家畜病院

静岡県浜松市の動物病院です。診療対象動物は、犬、猫、ウサギ、ハムスター、フェレットなど。総合診察、予防接種 からがん・アレルギーなどの専門医療、食事や健康管理相談、しつけ相談まで幅広く対応しています。

このブログの監修

武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

武信行紀(たけのぶゆきのり)

治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

経歴:

  • 鳥取県鳥取市出身
  • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
  • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
  • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
  • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

所属学会・研修:

  • 日本獣医がん学会
  • 獣医麻酔外科学会
  • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
  • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

主な執筆・学会発表

  • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
  • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
  • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
  • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
  • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
  • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
  • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
  • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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