脾臓のリンパ腫について
脾臓は造血機能とともに、免疫(リンパ)系機能を持っています。
このため、脾臓には一定の確率でリンパ腫が発生します。
犬のリンパ腫は完治の難しい腫瘍ですが、脾臓に発生した場合はちょっと話が違います。
一部のタイプは手術で治せる事もあるのです。
それが「脾臓のマージナルゾーンリンパ腫」です。
一般的にマージナルゾーンリンパ腫(MZL)は低悪性度(おとなしい)とされるリンパ腫で、とくに脾臓に発生した場合は脾臓の摘出のみで長期生存する例が多いとされています。
*脾臓以外のMZLも初期はおとなしいのですが、生存期間は通常のリンパ腫と同程度と言われていますので、そこまで良くはありません。
症例紹介
7歳齢の大型犬(上記写真、G.ドゥードル シュヴァルツ 本人とてもビビりなのにいつも献血頑張ってくれていました。ありがとう)
献血時の定期健康診断で、脾臓に3.5cmの腫瘤が見つかりました。
これは一大事と、詳細な検査が行われましたが、脾臓以外に病変は確認されていません。
将来起こりえる破裂を予防するため、手術によって脾臓ごと摘出する事を提案しました。
飼い主さんは即決で手術を決断されました。
なかなかすぐに決められる方が少ない中、すばらしい決断力です。
下の画像は手術中と摘出された脾臓です。(苦手な方は飛ばしてください)
病理検査の結果は「脾臓のマージナルゾーンリンパ腫」でした。
幸い、転移もなく破裂もしていなかったので手術のみで長期生存が期待できる状態です。
手術後はそのまま経過観察となりました。
献血犬(今まで多くの犬達の命を救ってくれて、ありがとう!)として頑張ってくれていたおかげで、
結果的に早期発見ができたことも一因ですが、飼い主さんの早期の決断が功を奏して、早期治療が可能になりました。
ともあれ、犬のリンパ腫は完治する病気ではないとされていますので、今後も再発・転移には厳重な経過観察が必要です。
<詳しく解説>
そもそもリンパ腫のTB分類と悪性度って?
・リンパ球には働きの違うT・B細胞があります。
・リンパ腫には高悪性度リンパ腫と低悪性度リンパ腫があります。
二つの分類を組み合わせると、4つのパターンに分けられます。
下の図のように大まか分けた4パターンは、治療効果と生存期間が大きく異なることがわかっています。
さらに下のグラフでは、B細胞リンパ腫(黄色のエリア)は悪性度に関わらず、中程度の治療反応と生存期間が予想される腫瘍だということがわかります。
MZLは「B細胞 低悪性度」リンパ腫ですから、本来は黄色のエリアに属する腫瘍です。
脾臓の場合だけが、特別なのです。
図:節型リンパ腫の治療反応
T細胞高悪性度(LBT/PTCL)vs B細胞高〜低悪性度(DCBCL・MZL)vs T細胞低悪性度(TZL)
Y軸:生存率 X軸:生存期間
まとめ:脾臓のリンパ腫は手術のみで良い?
昔から、脾臓のリンパ腫は他と違って長生きなのでは?と言われていました。
ただ本当にそうなのか、あまりよくわかっていなかったので、やっぱり抗癌剤を使って治療をすることが多かったのです。
それが最近10年間の文献では、脾臓に限局したリンパ腫(特にMZL)の場合は、補助的化学療法実施の有無は予後に関連しない!と言われるようになりました。
下記の文献*では、
「脾摘のみでの成績は中央生存期間383日、偶発的発見(臨床症状がない)場合の中央生存期間は 1,153 日であった。脾臓の MZL と診断された症例は、脾臓摘出のみ、化学療法なしで長期生存が可能である。」とされています。
当院では、脾臓のみに限局した転移も症状もないマージナルリンパ腫であれば、積極的な化学療法はオススメしていません。
ただし、いつかは全身に浸潤・転移する可能性があるため、注意深く定期検査を行う必要があります。
*脾辺縁帯リンパ腫の臨床的特徴と予後 O’Brien, D., et al.(2013). Clinical Characteristics and Outcome in Dogs with Splenic Marginal Zone Lymphoma. Journal of Veterinary Internal Medicine / American College of Veterinary Internal Medicine, 27(4), 949.
そもそも脾臓腫瘍に対する術前細胞診の精度はそれほど良くありません。(悪性感度67%とされています:Balegeer,2007)
また、細胞診自体、出血や破裂を誘引するリスクがあります。
このため脾臓腫瘍が見つかった場合は、腫瘍のサイズと増大スピードに注目して手術を検討することが重要です。(直径2.4cm以下は良性が多いと言われています:Lee,2018)
外科手術が可能であれば病名の確定診断ができ、将来の出血リスクを避けることもできます。
→そのほかの犬の脾臓腫瘍についてはコチラ
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