〜〜門脈シャントとは〜〜
門脈-体循環シャント(Portsystemic shunt:PSS)
肝臓に流入する血管(門脈)と全身循環(静脈)の間に異常な血管を形成する病気。
先天性PSSでは肝臓に血液が入らずに全身へ循環してしまうので、生まれつき肝臓が小さくなってしまいます。
好発犬種はヨークシャー・テリア、マルチーズ、ミニチュア・シュナウザーなど
〜〜門脈シャントの分類〜〜
①肝外単一シャント:シャント血管が肝臓の入り口で1本だけ存在。
小型犬で先天性に発生する門脈シャントでは 80 %~ 90 %がこのタイプ。
②肝内単一シャント:シャント血管が肝臓の中で存在。
③多発性シャント:シャント血管が肝臓の入り口で多発。
慢性の肝臓病で後天性に発生するタイプ。
〜〜門脈シャントの症状〜〜
肝臓の働きのひとつとして血液中の老廃物を処理する「解毒」があります。
門脈シャントでは血液が肝臓に入らないため、解毒が不十分になり老廃物が体内を循環します。
これによって以下の症状が見られます。
①神経症状(肝性脳症):肝臓でアンモニアが解毒されず、高アンモニア血症を引き起こす。症状は「食後に元気がない」、「歩行異常(ふらつき)」、「異常な行動(頭を押しつける、イライラする)」、「痙攣」など。
②泌尿器症状:尿酸アンモニア結晶( 50 %で発現)の尿中への排泄。膀胱内結石による血尿、頻尿。
③消化器症状:食欲不振、嘔吐、下痢、発育不良。
PSS を放っておくと …
肝臓の線維化が起こり、致死的な肝不全が生じてしまいます。
〜〜門脈シャントの診断〜〜
以下の手順を踏むことで確定診断されます。
①血液検査:食前,食後のアンモニア,総胆汁酸の上昇
②胸部レントゲン検査:小肝症(肝臓が小さい)
③ CT による血管造影検査:異常血管の検出
④開腹手術による門脈造影:異常血管の確認
〜〜門脈シャントの内科治療〜〜
内科治療は肝性脳症の抑制が目的です。
食餌療法(蛋白制限食)や抗アンモニア製剤(ラクツロースなど)が推奨されます。
内科的治療のみでは、動物の寿命は 2 ヶ月から 2 年であると報告されています.
〜〜門脈体循環シャントの外科治療〜〜
外科手術は完治させる唯一の治療法です。出来るだけ若い内に行うと治療成績は良いようです。
1. まず、シャント血管を確定させるために門脈造影を行います。
2. シャント血管を探して確認し、閉鎖します。
3. このとき、門脈の血圧(門脈圧)を測定しながら閉鎖していきます。
門脈圧が高すぎる場合は 1 回で完全に閉鎖せず(部分閉鎖)、数ヵ月後に2回目の手術を行い完全に閉鎖します。
手術が成功すれば、約8割の症例で正常な寿命を得る事が出来ると報告されています。
〜〜術後の注意点〜〜
この手術はリスクの高い手術です。元々肝臓が悪い動物(ほとんどは子犬です。)なのに、麻酔をかけて開腹をした状態で数時間耐えなければ成りません。相応な覚悟は必要になります。
術後合併症として結紮後痙攣症候群(5%)、新しいシャントの形成(5%)などがあります。定期的な検査が必要です。
実際の手術例は「門脈シャントの外科手術」(次週記事)をご覧ください。