猫の注射部位肉腫について

猫の注射部位(ワクチン)肉腫、様々な注射薬やケンカ傷などの刺激部位にできる腫瘍のことです。
この病気の原因は十分に解明されていませんが、注射に含まれるアジュバント(補助剤)が作用していると言われています。
海外での過去の調査では、特に狂犬病やFeLVなどの不活化ワクチン接種部位の炎症が関連していたようです。
その発生率は1万頭に1〜10頭とされています。
この腫瘍は通常の肉腫に比べて局所浸潤性が強く、遠隔転移性がやや高い(20%)という特徴があります。

猫の注射部位肉腫の治療

注射部位肉腫は幅広い腫瘍(線維肉腫、骨肉腫、未分化肉腫など)を含みますが、治療のためには広範囲な外科切除が必要です。
切除不能な場合は放射線治療を検討する場合もあります。
どの治療を行うかは腫瘍の種類や広がりかたによって決めます。

診断・治療の流れ

まず愛猫の全身状態をみるのに身体一般検査が必要です、それには血液検査やレントゲン検査や針生検が含まれます。その後の流れは以下のとおりです。

1. まず悪性かどうかを調べるために、腫瘍の一部を病理学検査に提出します。

2. 悪性腫瘍が強く疑われる場合はしこりを大きく切り取り、手術後に病理検査をします。

3. レントゲン検査などで、転移(おもに肺転移)がないか確認することが必要です。

外科療法について

悪性腫瘍の手術は、しこりの部分だけを切り取るのではなく、まわりの健康な組織も含めて切除します。
注射部位肉腫の手術では、再発率が14~69%と言われていますので、大きく取らないと再発しやすいと言えます。
直径1cm以下の癌であれば手術で治癒が期待できますが、癌が大きい場合や、周囲への浸潤が強い場合は完全にとりきることが難しくなってきます。
このような場合は残りのガン細胞をやっつけるために放射線治療や化学療法を行います。

化学療法(抗がん剤)について

注射部位肉腫の化学療法は補助治療として行います。
具体的には、手術後の残存した腫瘍細胞の殺滅や、手術不能例への適用です。
アドリアマイシン・カルボプラチンなどの抗癌剤感受性があると考えられています。

猫の注射部位肉腫の予防

長期作用する薬剤を複数回注射する場合は注射部位を分けること。
切除しやすい場所(足先、尾、脇腹など)に注射すること。

もし、注射部位に腫瘤を見つけたら、下記の場合は病理診断を行うこと。

・注射後3ヶ月以上存在

・2㎝以上

・注射後1ヶ月してから増大してきた

 

猫の注射部位肉腫の治療成績

過去の報告では下記のように治療成績が報告されています。

    • 一般的な外科手術のみ       再発期間 2ヶ月
    • 拡大外科手術           再発期間 910ヶ月
    • 化学療法(反応率40~50%)    反応期間 3〜4ヶ月
    • 放射線治療+外科治療+/-化学療法    再発期間 1224ヶ月

    上記の日数は比較のための数値です。各症例の再発を予告するものではありません。

     

    症例紹介

    12歳のアメリカンショートヘアーちゃん。
    急激に大きくなった背中のシコリに気づいて来院されました。
    ワクチン接種は若い時に行って以来、とのことで接種歴は不明です。
    よく観察してみると、シコリは頭と同じくらいの大きさまで増大しています。



    どんどん大きくなる腫瘍から解放してあげるため、飼い主さんは外科手術を決断されました。
    高齢猫の手術には、血圧異常や腎不全などの麻酔リスクを伴います。
    誰しも躊躇してしまうところですが、勇気ある決断です。


    手術は無事に終わりました。
    手術後の病理検査では「線維肉腫」と診断されました。
    皮膚や筋肉は十分切除され、腫瘍細胞は残さず摘出されましたが、腫瘍は一部肩甲骨の裏まで入り込んでいました。
    顕微鏡レベルでの腫瘍細胞が残っている疑いがあるため、今後も治療が必要です。

     

     

    手術後、傷が癒えるまでには時間がかかりそうですが、体力はすっかり回復した様子です。
    今後は残された寿命を全うするために、必要な治療を検討しているところです。

     

    注射部位肉腫の治療など、犬猫の病気の治療をどうすれば良いか分からない場合は、いつでもご相談ください。

     

    あれ??何か背中が大きくない?
    そういえば最近食欲が減っているかも・・・・
    背中を触ると嫌がるようになった???

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