News院長のブログ

2022.05.25

犬の乳腺腫瘍
獣医腫瘍科1種認定医が解説

犬の乳腺腫瘍とは

犬の腹部(女の子)にしこりを見つけたら、まずは乳腺腫瘍を疑います。
乳腺腫瘍が悪性(がん)である確率は約50%と言われています。

 

犬の乳腺腫瘍の予防法

乳腺腫瘍は女性ホルモン依存性のため、早期に避妊手術で予防が可能です。

  参照:Schneider R, J Natl Cancer Inst, 1969. Brody RS, JAVMA, 1983

すでに出来てしまった腫瘍が小さくなることはありませんが、乳腺への血液供給を減らして新しい乳腺腫瘍の発生を減らす効果は期待できます。

  参照:kristensen、V.M, et al, J Vet Inten Med, 2013

避妊手術の時期乳癌発生リスク
初回発情前0.5% (1/200に減少)
2回目の発情以前8% (1/12に減少)
2回目の発情以降26% (1/4に減少)
上記の数値は「避妊しなかった場合」と比べた相対リスクです。

犬の乳腺腫瘍の診断

乳腺腫瘍の大きさ(Tumor)や、リンパ節転移(lymph Node)、遠隔転移(Metastasis)を評価することで,進行度を確認してから治療方針を決定します。*これをTNM分類とか、ステージングと言います。

ステージTNM
stage1T1 <3cmN0M0
stage2T2 3~5cmN0M0
stage3T3 >5cmN0M0
stage4AnyN1M0
stage5AnyAnyM1
犬の乳腺腫瘍のWHOステージ分類

犬の乳腺腫瘍の外科(放射線)治療

一般的には下記の三段階の手術方法があります。

1. 腫瘍切除

腫瘍だけを小さく切り取ります。良性腫瘍や検査目的で行われます。

麻酔時間は短く、痛みも少ない方法ですが、乳腺を残して切除するため再発の可能性は高くなります。

腫瘍切除

図の赤い丸は乳腺腫瘍で、点線部分が切除範囲です(黄色い丸はリンパ節、ピンクの丸は乳頭)

2. 部分〜片側乳腺切除

腫瘍を含めて乳腺組織を一括切除します。大きな腫瘍でもしっかり切除が可能で取り残しを防ぎます。

切除する広さや深さを調節することよって、再発の可能性を減らすことが出来ます。

図の赤い丸は乳腺腫瘍で、点線部分が切除範囲です(黄色い丸はリンパ節、ピンクの丸は乳頭)

3. 両側乳腺切除

両側の乳腺を広範囲に切除します。何度も再発を繰り返す場合や、多発する乳腺腫瘍に有効です。再発や新しい腫瘍の発生リスクは最低限に抑えられます。手術の傷が大きいため、治るまで皮膚がつっぱる感じが残ります

図の赤い丸は乳腺腫瘍で、点線部分が切除範囲です(黄色い丸はリンパ節、ピンクの丸は乳頭)

犬の乳腺腫瘍の化学療法

現在、乳腺腺癌には抗がん剤「アドリアマイシン」「カルボプラチン」や、「エンドキサン」と非ステロイド系の消炎剤「COX2阻害剤」を併用する治療法が使用されています。いずれも手術後の再発・転移を予防するために補助的に使います。

近年では、新しいタイプの抗がん剤「分子標的薬」の効果も期待されています。 

ちなみに犬では、悪性の乳腺腫瘍にホルモン受容体があまり発現しないため、人で使われる「ホルモン療法剤」は使用されていません。

 

犬の乳腺腫瘍の早期治療をするためには

先に述べたように、犬の乳腺腫瘍の悪性比率は約50%ですので、半数は良性の乳腺腫瘍です。

ご家族が「本当に切除する必要があるの?」と考えてしまうのも無理がないでしょう。

しかし,早期に摘出すれば確定診断(病理検査)もできますので、はじめに検討していただきたい治療法です。

また、治療の成否を左右する予後因子は「腫瘍の大きさ」・「リンパ節浸潤の有無」と報告されています。

つまり、放置して増大・進行すれば死亡リスクが高くなるため、早期治療が最善の方法ということです。

日々のスキンシップを欠かさず、定期的に皮膚の触診をすることが一番の予防になります。

当院では、乳腺腫瘍の早期発見のための触診法の動画を公開しています。

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この記事を書いたひと

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武信

浜松家畜病院院長

飼っている動物:大型犬2匹、小型犬2匹
趣味:音楽鑑賞・キャンプ
性格:まとめ上手

【メッセージ】
子供の時から動物好き、獣医師である祖父に憧れて、今に至ります。
はじめて担当した患者さんがガンで悩んでいたことから、腫瘍専門の獣医師に。
動物の病気に悩んだ時は、気軽に相談してください、一緒に考えます。

    このブログの監修

    武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

    武信行紀(たけのぶゆきのり)

    治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

    経歴:

    • 鳥取県鳥取市出身
    • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
    • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
    • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
    • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

    所属学会・研修:

    • 日本獣医がん学会
    • 獣医麻酔外科学会
    • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
    • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

    主な執筆・学会発表

    • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
    • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
    • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
    • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
    • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
    • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
    • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
    • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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