症例紹介

2023.02.27

手が痛い!皮膚がむける?猫ちゃんの天疱瘡群とは?

症例

ある日こんな猫ちゃんがやってきました。

「両前足が腫れて痛そうです。」

身体検査をしてみると確かに前足の爪と皮膚の間が腫れて膿んでいます。とても痛いのか触られるの嫌がります。

症例は日本猫の男の子,去勢済み,3歳(体重 5.8 kg ちょっとむっちり)

 今までにいわゆるネコ風邪と呼ばれる鼻水が出たことがあるくらいで大きな病気はしたことがない元気な子です。

血液検査と肺のレントゲン検査(肺に病気があると手が腫れることがあるので必要な検査です。)をしましたが,両手の爪以外に異常はありませんでした。

この時点で皮膚の感染症あるは自己免疫疾患が疑われました。

 

治療法 

抗生物質とステロイド(プレドニゾロン)で治療を開始し,2週間程度で症状が改善したため,抗生物質を休薬,ステロイドを漸減しました。

しかし2か月後に症状が再発してしまいました。さらに今回は新たに鼻の頭にびらんが出来てしまいました。治療は前回と同様に抗生物質とステロイドで治療しましたが症状の改善と悪化を繰り返すようになってしまいました。(シクロスポリンと呼ばれる免疫抑制剤も併用しようとしましたが,軟便や下痢,嗜好性の低さなどにより投薬を継続することができませんでした。)

定期的な血液検査においてステロイド薬服用によるものと思われる肝酵素,中性脂肪の上昇と,増量したプレドニゾロンでも改善みられなくなりました。今後の治療を自信をもって行うため飼い主様の同意を頂き病変部の皮膚生検を実施させていただきました。

皮膚病理検査による組織学的診断は 深層性皮膚炎,落葉状天疱瘡あるいはこれに準じた免疫介在性皮膚疾患の可能性が強く疑われる という結果でした。

 落葉状天疱瘡と呼ばれる自己免疫疾患の可能性が示唆されたことで自信をもってステロイドを使用することができました。また,プレドニゾロンが効果がない時に治療反応が得られる場合がある別のステロイド製剤,トリアムシノロンに変更したことで症状の改善がみられました。幸いなことに現在,副作用が出ないような低用量まで漸減できており,症状もコントロールできています。

 

コメント

 皮膚天疱瘡とは自身の表皮細胞を免疫が攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。猫における好発品種や性差,年齢差はないといわれています。症状としては今回のように皮膚にかさぶたやびらんができることが多く,好発部位は頭部,顔面および耳であり,左右対称なことが多いです。また,爪床,肉球にできることもよくあるようです。痛みや痒みは軽度~重度と個体差があります。

 この病気は膿疱内容物や痂疲の中に多数の好中球や表皮細胞が免疫細胞に攻撃されて剥がれ落ちることで生じる棘融解細胞と呼ばれる細胞が認められます。ただし,疥癬や皮膚糸状菌症などの類似感染疾患を除外する必要があります。確定診断を出すには皮膚病理組織学的検査を実施しなければなりません。

 治療はグルココルチコイド製剤(ステロイド)が主体となり,そのほかに免疫抑制薬やステロイド外用薬の使用があります。多くが治療に反応しますが,再発することが多く,長期にわたって治療が必要になります。また,一種類のステロイド治療で治療に反応しない場合でも,別の種類のステロイドに変更することで奏功することがあるようです。。

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浜松家畜病院

静岡県浜松市の動物病院です。診療対象動物は、犬、猫、ウサギ、ハムスター、フェレットなど。総合診察、予防接種 からがん・アレルギーなどの専門医療、食事や健康管理相談、しつけ相談まで幅広く対応しています。

このブログの監修

武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

武信行紀(たけのぶゆきのり)

治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

経歴:

  • 鳥取県鳥取市出身
  • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
  • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
  • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
  • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

所属学会・研修:

  • 日本獣医がん学会
  • 獣医麻酔外科学会
  • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
  • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

主な執筆・学会発表

  • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
  • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
  • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
  • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
  • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
  • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
  • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
  • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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