News症例紹介院長のブログ

2022.06.10

お乳と膀胱にしこり?
乳癌と膀胱癌の重複腫瘍の治療

高齢動物と重複腫瘍について

高齢の動物では時に、複数の腫瘍が同時に発生することがあります。

若い時と異なり体力が落ちていたり、どこまで治療するかも飼い主さまの希望により、ケースバイケースです。

そんな中で、悩むポイントは

1. どちらの腫瘍を先に治療するのか?

2.一度ですむ外科手術か?薬を継続する内科治療か?

3.手術法をどうするか?(大きく取る?乳腺癌には不妊手術が併用されるべき?)

などがあると思います。

各家庭で状況は異なると思いますが、一般的な方針(著者の考え)を解説します。

重複腫瘍のポイント1 

〜 どちらの腫瘍を先に治療する? 

難しい問題ですが、基本的には「困っている症状」と「悪性度の強い方」を優先して治療すべきです。

高齢であれば、腫瘍の痛み、出血や機能障害を改善してあげることを重視しましょう。

腫瘍の悪性度が高ければ、すなわち生命に関わる確率が高いので、優先して治療しましょう。

重複腫瘍のポイント2 

〜 外科vs内科治療どちらが良い?

麻酔がかけられるなら、はじめに外科手術を実施しましょう。

リンパ腫を除くほとんどの腫瘍の治療では、外科手術の成否が鍵になります。

高齢ならなおさら、一回の麻酔で治療が済めば、実は一番負担が少ないかもしれません。

ただし、リンパ腫や、一部のがん(膀胱・前立腺癌など)は内科治療が優先されます。

重複腫瘍のポイント3 

〜 手術するなら方法は?

これも一概に言えませんが、、、、

若い動物の外科手術は取り残さないように大きめ、高齢動物では「生活の質」温存のために小さめにすることが多いです。

乳腺腫瘍の同時避妊手術は、賛否両論ですが発情と腫瘍増大が関連していれば実施しましょう。

➡︎乳腺腫瘍の治療については、こちらを参考にしてください。

症例紹介

 

ミニチュアダックス 13歳 避妊メス

半年前からある乳腺腫瘍が増大してきたが、かかりつけ医では手術できないとのことで、ご来院されました。

検査所見

体重6.9kg 体温38.0℃ 心拍数110回/分 呼吸数20回/分
一般状態   :良好
一般身体検査 :両側乳腺に多発する乳腺腫瘍

画像検査:膀胱腫瘍あり。遠隔転移なし。
血液検査   :特記すべき異常なし

細胞診    :乳腺は中程度異形成のある細胞集塊、膀胱は異形成のない移行上皮。

尿検査        :  尿路腫瘍の遺伝子(Braf)変異検査は陰性

仮診断    :乳腺腫瘍(乳がんの可能性)、膀胱腫瘍は良悪不明

治療オプション

 重複する腫瘍に対して個々に治療をご提案しました。

 A「乳腺腫瘍」の治療オプション

  ① 両側乳腺全切除+卵巣子宮摘出術

  ② 両側乳腺部分切除+卵巣子宮摘出術

  ③ 乳腺腫瘍のみ切除

 B「膀胱腫瘍」の治療オプション

  ①膀胱尿道全摘出術

       ➡︎当院での膀胱前立腺癌の外科手術についてはコチラも参考にしてください

  ②膀胱部分摘出術(生検)

  ③増大傾向を観察してから化学療法

 飼い主さまは、年齢のことも考えて、できるだけ負担の少ない治療を望まれました。

 そこでまず、急速拡大して床に擦ってしまっている乳腺の治療Aの②を選択しました。

外科治療

 

第8病日 「両側乳腺分房切除術+卵巣子宮摘出術」実施

 病理組織検査:右乳腺は「悪性混合腫瘍」、左乳腺は「良性混合腫瘍」

 その後、膀胱腫瘍は病理検査で「移行上皮癌」であると判明しました。  

 徐々に増大して血尿が始まったので、上記のオプションを再度提示いたしました。

 そこで、乳腺癌の転移予防と膀胱移行上皮癌に共通して効果が期待できる化学療法を選択することにしました。

内科治療

 第90病日  カルボプラチン 150~300mg/m2  による化学療法開始、腫瘍は退縮

 第200病日  急性膵炎・腎不全により入院治療

 第300病日 トセラニブ+腫瘍抑制剤による分子標的療法開始

 第330病日 クッシング症候群発症、膀胱がんは増大縮小を繰り返しながら小康状態

経過とまとめ

 現在、初診から一年経過しましたが、膀胱腫瘍を抱えながらも元気に過ごしていらっしゃいます。

ご家族のコメント

「ずっと通っていた病院で診断できなくて、手遅れになる所を救っていただきました。断られてもおかしくない状況で、検査や手術を迅速に進めていただき、一時は新年を迎えられないのではと思う程体調を崩したこともありましたが、その時も先生に命を救っていただきました。2月には誕生日を迎え14歳になりました。家族で驚いたのは前の病院ではいつも震えていたのに、浜松家畜病院ではとても落ち着いていることです。先生はじめ、スタッフの皆さんが親切で動物思いでいて下さるのが伝わるのだと思います。付き添いの家族にも寄り添ってくださり、いつも感謝しています。」

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この記事を書いたひと

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武信

浜松家畜病院院長

飼っている動物:大型犬2匹、小型犬2匹
趣味:音楽鑑賞・キャンプ
性格:まとめ上手

【メッセージ】
子供の時から動物好き、獣医師である祖父に憧れて、今に至ります。
はじめて担当した患者さんがガンで悩んでいたことから、腫瘍専門の獣医師に。
動物の病気に悩んだ時は、気軽に相談してください、一緒に考えます。

    このブログの監修

    武信行紀(たけのぶゆきのり)浜松家畜病院院長

    武信行紀(たけのぶゆきのり)

    治療方針:恩師の言葉である「慈愛理知」(慈しみと愛をもって動物と飼い主に接し、理論と最新の知識をもって診療に当たる)を胸に、人と動物の絆に貢献します。

    経歴:

    • 鳥取県鳥取市出身
    • 1999年 麻布大学獣医学科卒業
    • 2005~2009年 麻布大学腫瘍科レジデント(サブチーフを務める)
    • 2013年 獣医腫瘍科認定医1種取得
    • 2014年 日本獣医がん学会理事就任現在に至る

    所属学会・研修:

    • 日本獣医がん学会
    • 獣医麻酔外科学会
    • 獣医整形外科AOprinciplesCorse研修課程終了
    • RECOVER BLS&ALS 研修課程終了

    主な執筆・学会発表

    • 2003年~2007年 「犬の健康管理」 ANIMAL WORLD連載
    • 2005年 「拡大乳腺切除および補助的化学療法により,良好な経過が得られた猫乳腺癌の1例.」(第26回動物臨床医学会年次大会)
    • 2006年 「血管周皮腫の臨床的研究」(第27回動物臨床医学会年次大会)
    • 2008年 「外科切除および放射線治療を行った高分化型線維肉腫の2例」(第27回日本獣医がん研究会, JONCOL2008/No.5)
    • 2009年 「特集:血管周皮腫」 (InfoVets 2008/8月号)
    • 2010年 『小動物臨床腫瘍学の実際』 翻訳参加 (Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology 4th ed.)
    • 2010年 「外科切除を行い良好な経過が得られた乳頭状扁平上皮癌の1例」(第30回獣医麻酔外科学会)
    • 2010年 「肝破裂による血腹が見られた猫の肝アミロイド―シスの一例」(第19回中部小動物臨床研究会)
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